Black Angels
ずっと小春の面影を探し続けていたお母さんは、お手伝いしている猫カフェを通して、保護された二匹の仔猫を家に連れて来た
生後4週位の黒い仔猫♀、名前は(Chloe)クロエ
同じく黒っぽいトラの仔猫♂、名前は(虎二郎)コジロウ
小春の時とは違いもう生後一カ月だから、ちゃんとフードも食べられるし、トイレも自分でできる。
しかも兄妹だから二人でヒマさえあればジャレて遊べるし、ホントに可愛すぎて見ていて飽きないから、仕事が手につかないよ~と、家族全員が仔猫に夢中だ。
最初はクロエが少しだけクシャミをしていたから、万が一にも茶太郎→ボクに感染したら、また大変な事になるかもと、お母さんはとっても気を使って、最初の数日間は完全に隔離してボク達に会わせてくれなかった。
それでも仔猫達は二日間病院で診察と治療を受けて、目ヤニもクシャミも出なくなったし、元気一杯に遊んでいるから、お父さんがいる時だけはケージごと一階に運んで、ボク達にも会わせてくれたんだ。
クロエがケージの中をよじ登って、ボクに「カッ」と威嚇してきたのはビックリだけど、やっぱり♀猫は気が強い。
コジロウは身体も小さいけど、気も弱いみたいな??
そこにまたしてももう一匹、猫カフェオーナーの知り合いの知り合いから、保護された仔猫がやってくるらしいという話しを小耳に挟んだ
それも三毛の♀月齢がちょうど仔猫達と同じ位で、一緒に過ごした方がお互い社会性が育つからだって。
まあ、皆が良ければボクは別に構わないけどね、どうも♀猫ってボクはちょっと・・・苦手なんだよ
まあ茶太郎が興味津々だから、アイツに任せておこうっと。
何よりお母さんが元気で明るくなったのが一番良い事だし
あれから一年
去年の5月30日に突然我が家にやってきた小春。
そしていろんな出来事があって、突然逝ってしまった小春。
同じ頃に生まれた猫カフェスタッフの他の猫達は、その多くが里親にもらわれたり、残った数匹も1歳の誕生日を迎えたりして、順調に大きく成長しているらしい。
本当なら小春ももう1歳になって、一人前にデカくなっていたんだろう。
お母さんは猫カフェで1歳を迎えた他の猫達を見ると、ちょっとだけ胸が痛くなると言っていた。
もしかして今年も小春の兄妹が生まれるかも?とほんの少しだけどこか期待もしていたみたいだけど、そんな気配もなく時間だけが経っていく。
お姉ちゃんにも
「もういい加減気持ちを切り替えないとダメだよー」と言われても、なかなか簡単にはできないみたい。
小春の事と震災の事で精神的にかなりダメージを受けたみたいなお母さん。
やっぱり気持ちが苦しいから、先月からまたクリニックに通い始めた。
薬で少しでも楽になれればいいけど、薬よりも何よりもボク達猫がお母さんを一番元気にするのは分かっているから、ボクはいつもお母さんに話しかけたりして、癒しと力を送り込んでいる
春の気配・小春の気配そして震災
春が来てこの町もかなり温かくなってきた。
少し前までは家の中のあちこちに小春がいる気配がしていたのに、最近はそれもあまり感じないような・・・
小春も何かを感じ取って虹のむこう側に行ったんだろうか?
お母さんも以前は小春の遺骨に話しかけたりしては泣いていたけど、近頃はやっと泣かずに小春の写真を見ている事もあるんだ。
小春の気配がしなくなって少し寂しい気もするけれど、いつまでも引きずってもいられないし、それはそれで仕方がない事かもしれない。
そうして落ち着きを取り戻してきた我が家でも、先月東日本大地震が起きた時は、丸一日停電して状況がすぐには分からなかったけど、あの悲惨な状況が分かるにつれて驚きと悲しみで胸がつぶれそうだと、お母さんはあれから毎日のように報道を目にしてはまた涙を流している。
せっかく小春の悲しみから立ち直りかけていたのに、今度は大災害の状況に胸を痛めているんだ。
お母さん達はこの町に引っ越してくる前は、岩手や宮城にも住んでいて、岩手三陸の町も宮城の町もたくさん訪れた事があるし、今も沢山の友人が暮らしているらしい。
初めて行ったハワイは仙台空港から行ったらしいし、お兄ちゃん達が遠足やスポ少の大会で行った宮城や福島の町がテレビに出たり、通っていた小学校は津波の避難所になっているのが新聞に載ったり、お母さんはそんな記事を読みながらまた涙を流していた。
「今あの町に住んでいたら、私達も小学校の避難所にいたのかな?」
大地震が来るとは思っていたけど、こんなに酷い災害が起こるなんて、想像できなかったって言ってるお母さん。
こんなにも多くの人達が亡くなって、生き延びた人達も悲しみと不安に苛まれているのだろうと、お母さんには他人事のようには思えないらしい。
亡くなった人の名簿を毎日見ていたお母さんは、最近は見ないようになった。
精神的に消耗するからもう止めて、今は自分が元気になってできる事をしようと思うんだって。
「その為にもアナタ達が私の心を癒してちょうだいね」って言われた。
まあ特に何かしなくても傍にいるだけでいいんだから、別に難しい事じゃあない。
ボクだってお母さん達と離れ離れになるなんて考えられない。小春の分もボク達はお母さんが泣かずに済むよう、ずっと傍にいて過ごすんだ。
小春の旅立ち
ちょうど一ヶ月前、12月24日のお昼頃にお父さんとお母さん、お兄ちゃんの三人は旅立った。
そしてその同じ日の同じ頃に、自宅で留守番していた小春も旅立った。
お父さん達が向かったヨーロッパよりもずっとずっと遠い処へ。
二度と戻って来られない遠い処へ・・・
数日経ってお父さん達が帰国した日、成田空港からお姉ちゃんに「着いたよ」とメールしたら、お姉ちゃんからの長い返信メールに
「小春が死んだ」という事が書いてあって、お父さんは驚いてお母さんにもそのメールを見せたらしい。
お母さんは内容の事を聞いても、メールの文章を見ても、それが何を意味するのか、どうしてあの元気な小春が突然死んだのか、頭が真っ白になって全然理解できなかった。
でも何度も何度も読み返して、やっぱり「小春が死んでしまった」という事実だけが、お母さんの心に突き刺さって、羽田空港までのリムジンバスの中でも、羽田からの飛行機の中でもお母さんはずっと涙が止まらず、ハンカチで顔を覆いながら黙って泣き続けた。
飛行機が到着してすぐに、お父さん達は小春を預かってもらっていた、NPOのMさん宅に直行して小春に対面したらしい。
少しだけ眼を開けて眠っているような小春。でも冷たくて硬くなっていた身体が、死という現実を思い知らせた。
動物の火葬も手がけているMさんに、その二日後の火葬をお願いして、お母さんは小春を家に連れて帰ったんだ。
火葬の日はとても天気が荒れていて、まるで皆の悲しい気持ちみたいだった。
ボクも茶太郎も家の窓から小春を見送った。
間もなくお正月がきて短い冬休みの後、お父さんもお母さんも仕事で、再び忙しい毎日。
お兄ちゃんも少ししてから学校へ戻って行ったし、お姉ちゃんの学校も始まり、皆がいつも通りの生活に戻ったように見える。
でもお母さんは「心に蓋をして」仕事をするのが結構こたえるって言ってる。
お風呂に入ると小春がつかまり立ちした時の脚の傷が、少しずつ消えるのを見て泣いているみたいだし、まだ小春のベッドや小物なんかはそのまま片づける事ができないみたいなんだ。
ボクも茶太郎もあの元気でウルサイ小春が急にいなくなったもんだから、最初はとまどってしまった。
お母さんやお姉ちゃんが泣くのを見て、何となく小春がもう帰って来ないんだって、だんだん分かってきたし、もっと優しくしてやれば良かったって思うこの頃。
ただお母さんが元気がないと皆が心配するし、もう自分を責めるのはやめて、小春は家で7ヶ月間幸せだったと思うようにしようよ。
きっと小春は向こうでは他の猫のように、普通に走ったりジャンプしてるんじゃないかな?そしていつか、お母さんが向こうに行くまで待っていると思うよ
生まれて初めての雪
あっという間にもう12月。
ボクのワクチンも済んだし、一年があっという間だわ~とお母さんは焦っている。
ボクが小春のカリカリを盗み食いしているから、絶対太ったとお母さんは断言していたけど、何と去年より体重が減っていたから、お母さんはビックリ
見た目じゃ絶対太ったと思ったのにな~・・・と、納得いかないみたいな?
そして少し前から時々雪が降るようになって、小春は窓から外を眺めては不思議そうに首を傾げている。
5月に生まれた小春にとっては、今は初めての冬で初めての雪だから、きっと雪が何なのか分からないんだろう。
そして窓につく雪を、虫のような生き物だと思うのか、手を動かして触ろうとするから、お母さんは
「これは雪だよ、雪!」と言って教えても分かるはずもなく・・・
いつまでも窓の所で雪めがけて猫パンチする小春を、お母さんは抱っこして外へ連れて行き、雪を体感させたみたいだ。
これでもう猫パンチしないな、と思ったのもつかの間、また小春は同じように窓の外の雪を触ろうとしていて
「ダメだ、こりゃ・・・アタマ悪いのかな?」と諦めたみたいなお母さん。
まあ、そのうち分かってくるんじゃないの?
それよりもお母さん達はもうすぐ旅行に行くらしい。
その割に全然準備もしていないみたいだけど、いつものように直前じゃマズイんじゃないかなー
国内ならまだしも、一応国外なんだし、忘れ物なんかしたら大変だろうに・・・
まあボク達は今回はペットホテルじゃなく、家にいられるからホント良かった。
お姉ちゃんも残ってお世話してくれるって言うし。
久々の飛行機で浮かれてないで、明日からでも早く準備して、忘れ物しないようにね。